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■ Report
  
第78回「Eビジネス研究会」                         平成19年1月26日(金) 
   
テ   ー  マ: 『ポストIPOベンチャー企業の成長戦略に必要なもの』
  〜サイボウズにおけるケーススタディを通して〜
   
Eビジネス:
マイスター
サイボウズ株式会社 取締役副社長
フィードパス株式会社 代表取締役社長
津幡 靖久 氏
    
当日の様子はこちらから 当日の資料(抜粋版)はこちらから
               

78回目の今回は、サイボウズ株式会社 取締役副社長の津幡靖久氏をお迎えして、サイボウズグループの事業戦略を交えながら、株式公開後の次フェーズでのベンチャー企業の成長のあり方や成長に必要な要素・阻害要因などについてお話いただきました。


■ベンチャー企業のこれから


IPOの障壁は、ここ10年でかなり下がったといえます。例えば15年前であれば、大学を出たばかりの人が社長になって、上場するということは全く一般的ではありませんでした。
ところが、今では起業を目指す学生が増え、彼らが「上場」という言葉を口にすることも珍しくなくなりました。また、ソフトウェアを開発している技術者でも3年程度でIPOしたりと、もともと古くからの企業形態のゴールであった「上場」が、むしろそこから何をするのかということを考えなければならない時代になりました。


昨年だけでも、150〜200社の新規上場企業がありました。津幡氏は、50年後にこの中からトヨタやソニーのような企業がどれだけ生まれるのかという点に、日本のベンチャー育成の焦点が移っていると感じています。


■サイボウズ急成長の歩み


サイボウズは、97年に創業者の出身地である愛媛県松山市で設立され、ある1つのソフトウェアの大ヒットをきっかけに、設立から3年後の2000年にマザーズ上場、その2年後に東証2部上場、昨年7月には、飛ぶ鳥を落とす勢いで東証1部上場を果たしました。


事業の沿革を見ていくと、創業した97年8月の2ヵ月後に「サイボウズ・オフィスT」というグループウェアを発売し、これが大ヒットとなり、その翌年に「オフィスU」を発売。ある時期までは、基本的に1年に1回バージョンアップをしていくプロセスを経てきました。


創業2年目には、松山からより人材の豊富な大阪へオフィスを移転。その2年後にマザーズ上場。8月には「サイボウズ・オフィス」の導入企業が5,000社を突破しました。10月には「オフィスW」を発売し、12月に本社を東京へ移転。翌年には導入企業数が1万社を突破し、2002年に東証2部上場――。ここまでの企業成長のスピードとしては、事業計画を常に上回り続ける結果となりました。


ところが、2003年1月期に入り、初めて前年比で減収減益の決算を出しました。この要因としては、前期に「サイボウズ・オフィスV、W」が大ヒットした反動から売行きが止まり、売上も25億から21億まで減りました。その後、2004年、2005年は売上利益も増加基調に戻しましたが、10%〜20%成長という堅調な伸びにとどまり、明らかに成長のスピードが減退した時期でした。


時価総額についても、マザーズに上場した2000年直後には、最高300億を記録したときもありましたが、この停滞期には最低70〜80億とピーク時の約4分の1まで下がりました。この状況を打破するためにも、経営陣は内部の経営を固めつつグループウェアの改善を図り、2005年からはM&Aも加速して、新たな成長期を目指す方針で臨んだといいます。


社内における津幡氏の役割は、グループ会社との連携を通じたM&Aの戦略的な統括とプラスアルファとして、外部のウェブサービス・ソフトウェア会社などへアライアンスを仕掛けていく業務も行っています。


■サイボウズ・オフィスのマーケティング


「サイボウズ・オフィス」という主力製品は、スケジュールレイアウトや会社内のメール、掲示板の機能を取り込んだグループウェアです。現在、日本ではIBMの「(ロータス)Notes」に続き、第2位のシェアを占めています。
日本以外の国のソフトウェアのシェアは、IBM、マイクロソフトが独占している状況ですが、日本の場合、大企業ではIBMやマイクロソフト、また日本のベンダーでは富士通、NECが強く、サイボウズは中堅以下の会社ではシェアがトップになります。


「サイボウズ・オフィス」の特徴は、直感的にわかりやすいインターフェイスで、マニュアルが不要なくらい使いやすいという点です。運用するユーザーもサーバーを1つ用意して、インストールすればすぐに使うことができます。『日経コンピュータ』が実施するソフトウェアのジャンル別顧客満足度調査では、6年連続第一位を獲得しています。


さらに、サイボウズでは、マーケティングにおいても独自の手法を展開しています。例えば、販売面の特徴としては、自社のホームページからダウンロードして販売するという形にこだわってきました。そこで重要となるのが広告戦略ですが、企業向けソフトウェアのキャンペーンとしては異例の広告(社長自らが広告塔として登場)や目立つバナーを使うことでPRしています。
また、インターネット広告にも早くから取り組み、狭いマーケットに集中的に広告を打つことによって効果が表れています。かつては、IT系のメディアや新聞系のネット広告を中心に、売上の約半分の広告費を割いていた時期もありました。


プライシングの面では、基本的に50ユーザーで19万8,000円の価格を設定していますが、これにも意図があります。主に大企業の部長クラスの決裁権限を意識しており、こだわった価格設定だと津幡氏はいいます。
現状では、グループウェアが売上の8割以上を占めており、「サイボウズ=グループウェア」というブランドイメージが確立されています。


■M&Aに取り組む目的


サイボウズの企業理念は、「世界に出て行けるIT企業を目指す」というものです。しかし、これまで順風満帆に成長を続けてきたものの、停滞期を経て、ここ最近は人・モノ・カネに関して成長のスピードが落ちていると津幡氏は感じています。
したがって、今こそ「ポストIPO」の戦略が重要であり、ベンチャーにありがちな、1つの製品が当たって2発目が出せない、あるいは1発目を世界に持っていけないというジレンマに陥ってはいけないと考えています。
実際、最近の製品開発にかかるスピードには遅れが見られ、中長期的にこの問題を改善していかなければ、ヤフーやグーグルには勝てないと津幡氏も感じています。2005年頃からM&Aなどに取り組んでいるのは、そういった懸念があるからです。


M&Aには、売上よりもむしろ良い人材をしっかりと確保していく狙いがあるといいます。今後、売上を何倍にも伸ばして、良い製品を市場に送り出そうとすると、そのスピードに合わせて良い人材を採用することはなかなかできません。M&Aに関しては、ある意味、採用活動の一環のような感覚で取り組んでいると津幡氏はいいます。


■グループ会社とのシナジー効果


サイボウズの昨年の売上は、連結子会社が26億、単体が33億で、今年は連結が100億となり、利益は若干減る見込みです。停滞期から10〜20%成長の時期を経て、ここ数期は再び倍々で売上を伸ばしています。また、社員数も単体で派遣社員も含め200名弱の社員がおり、グループ全体でも約700名の陣容になりました。


しかし、サイボウズ本体とグループ会社との相乗効果については、現状の連結決算を分析していくと、売上ベースで10億円にも達していません。今後もグループ間でのOEM製品提供などは拡張していく予定で、ブログや携帯電話のキャリアなどを賛同した形でのグループウェアサービス、営業支援システム、内部統制ソリューションなどもセールスしていく予定です。


グループ間のシナジー効果を発揮させる上で意外と重要なのが、人や情報の交流を意識的に増やすということです。現場レベルでは、グループ会社とはいえ、どうしても「他社の人」という意識で社員同士が接してしまいがちです。そこで、半年に一度グループ総会のような形で立食パーティを企画したり、社長・役員クラスで合宿を行い、ざっくばらんな情報交換の場を設けるなど、時間はかかっても風通しのよいコミュニケーションを増やすことが大切だといいます。


今後の事業については、単体で売上が上乗せされたり、もともとやっていた事業で利益が上乗せされることはすぐに成果が表れますが、グループウェアプラスアルファの部分や、既存のお客さまに新たにビジネスを提供するという観点では、慌てすぎない方がよいと津幡氏は考えています。

 
商売の基本として、製品を買ってくれるお客さまの数と顧客あたりの購買金額を伸ばしていけば、当然事業は大きくなりますが、グループウェアについては約230万人のエンドユーザーを抱えており、いかにそこにフォーカスしていくか、また、より継続的な事業としていくかということを重視してきました。
その過程では、自社にないリソースを、出資することによってよりグリップして、コア事業の成長に役立てていきたいというのが、サイボウズのグループ拡大戦略の重要な柱なのです。


■Web2.0の進化がもたらすもの


最近は何かと「Web2.0」が取り上げられていますが、津幡氏自身は、システムの構成がメインフレームからクライアントサーバーになり、ウェブのアプリケーションになったのと同じような、時代の流れの一つだと捉えています。
そんな中で、新しい付加価値を付けていくためには、テクノロジー的にうまく使える要素は増えているので、シームレスに情報を活用したり、ソフトウェアの使い勝手を向上させることで、グループウェアのユーザーや新しいサービスを増やしていくことが重要です。


では、具体的にサイボウズがどのようなビジネスモデルを考えているかというと、やはり今後もハードやソフトを運用していくことで対価を得るようなビジネスをしたいと考えています。
ここ10年でインターネットが急速に普及したように、ソフトウェアというのは、ますます身近になっていくものだと思います。だからこそ、サイボウズは誰もが簡単に、何処でも使えるようにしたいと考えます。そうして社会に貢献する企業を実現することによって、必然的に企業規模は大きくなると津幡氏は考えています。






● 質疑応答


Q1 システム管理者がいない会社作りを目指しているというお話がありましたが、今後会社が大きくなればなるほど、信用やシステムのサポートという面で支障が出てくると思います。その辺りについては、今後も同様の方針でいかれる考えなのでしょうか?

A1 我々もすべてのグループ会社でそうするのは無理だと考えていて、まずはASP型に事業モデルを切り替えていくことが必要と考えています。結局、「サイボウズ・オフィス」を購入していただいた方にとって、インストールしたり、動作確認したりということは誰がしてもよい作業だと思いますので、そういったところの手間を減らすのが最初だと思います。
企業のイメージでいうと、私がまず思い描くのはスタートアップした会社がLANケーブルを引いたり、プロバイダと契約したり、PCを注文したりすると思いますが、その辺りの手間を取り除いていって、ソフトウェアを提供していくのが第一歩かなと考えています。理想としては、ソフトウェアを電話やFAXのように誰でも使えるものにしたいと考えています。


Q2 津幡さんが考えるIPO前の最も理想的な資本供給の手段とは、どのようなものですか?

A2 個人的には、大手ベンチャーキャピタルにお金を出してもらわない方がよいと思っています。というのは、基本的には「企業は人」だと思うからです。弊社も創業間もない時期に当時はジャフコさんにいた人間が経営チームに加わり、今でも外部取締役として経営のアドバイスをしています、私も彼が紹介した人間の縁でサイボウズにジョインしていたりもします。
そういう意味で、長期的に自社にコミットしてくれる人であれば、ベンチャーキャピタルの人を入れてもいいと思いますが、結局銀行の担当者のように異動で入れ替わってしまう人であれば、特に入れる必要はないように思います。IPOにこだわって尻をたたいてくれる人は、もちろんいた方がよいのですが、それは本質ではないと思います。
むしろ、アメリカのように失敗しても面倒を見てくれる良心的なエンジェルのような人たちが、もう少し増えてくると理想的です。また創業メンバー、マネジメントチームで絶対に過半数が株を持っているべきだと思います。ただ、IPOまでの期間や業種によっても違ってくるので、一概には言えません。


Q3 会社の成長と人間(社員)の成長、人件費の成長の関係性について、どのようにお考えですか? M&Aは採用活動のような感覚で捉えているというお話と関連してお聞きしたいのですが。
A3 先ほど、上場前に売上の半分くらいを広告宣伝費に使っていて、現在はその割合が20%くらいに変わってきているというお話をさせていただきましたが、残りの30%がどこにいったかというと、人件費になったのです。
やはり長期的に考えると、そこが先行しているところです。理想をいえば、安定的に人件費を割いていければよいのですが、ある時期人件費が先行していくことは、売上は基本的に人件費と相関していくものだと思いますので、仕方ないのです。
私自身は、企業の最終利益というのは、経営者が目指すべき最大の指標ではないと思っています。企業が大きくなって何を重要視するかといえば、売上の他、人件費と最終利益の合算であって、それが社会価値を作っていくと思っています。ですから、あまり人件費を削ってまで利益を出そうとは考えておらず、むしろ優秀な人を雇うためなら人件費のルールを変えていったらいいと思っています。そういう意味では、今のサイボウズはかなり先行投資している時期だといえます。 


2007.1.26
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